心持の悪い時は

  七九、秀存講師、尋ね申して曰く。
  信には疑いなけれども、
  それでも心持の悪い時がありますが、
  そんな時は、いかが致せばよろしきにや。
  師の仰せに。そんな事は他に云わいでもよい。
  ただ御念仏をしていらっしやれのう。

  (香樹院語録)

   
 信心をいただくとは心を離れて心を見る体験です。離れるから見える。"ここ"にいて"ここ"は見えない。"ここ"が見えたのは"ここ"を離れたからです。自分の心を一度は離れても、気づかないうちにまた自分の心と一体化してしまう。心への執着はしぶとくて、何度も何度も、延々と、繰り返し繰り返し、念仏して心を離れなくてはならない。秀存師は「それでも心持の悪い時があります」と。自分の心への執着を残している。香樹院師のご指導は簡単で「そんな事は他に云わいでもよい」。ただ念仏していなさい。自分の心に振り向くなと教えている。

 南無阿弥陀仏

 柏原祐義・禿義峯編「香樹院語録」


# by zenkyu3 | 2017-05-16 06:35 | 香樹院語録を読む | Comments(5)

地獄あることなし

  一二六、幕府の儒官林大学、
  守山駅に逗留の際、永願寺に師の講演ありと聞き、
  参詣して親り問うて曰く、地獄は実にありや。
  師曰く。必ずあることなし。
  林曰く。それは自語相違ならずや。
  師曰く。罪なきものにはこの世の獄屋もなし、
  罪の軽重によりては、無量無辺の地獄あり、と。
  林大学、則ち大に感ずる所あり。
  其の後、日毎に参詣聴聞す。
  後に至りて師、よき弟子を設けたりと仰せあり。

  (香樹院語録) 
 

 「地獄は実にありや」と聞く林大学頭には「死後の地獄」の心配があった。それを見透かして「必ずあることなし」と。案の定、林大学頭、香樹院師の言葉の罠にかかる。「それは自語相違ならずや」。香樹院師答えて「罪なきものにはこの世の獄屋もなし」と。信の一念に罪消えて仏のお心の中に生まれた念仏者に「死後の地獄」はない。しかし「罪の軽重によりては、無量無辺の地獄あり」。罪を造れば因果の道理で、自ら地獄を造って、そこへ自ら堕ちていく。当然ではないか、と。「林大学、則ち大に感ずる所あり」。林大学頭、自らの地獄行きを悟ったか。師のご化導を仰ぐことになった。

 南無阿弥陀仏

 柏原祐義・禿義峯編「香樹院語録」


# by zenkyu3 | 2017-05-15 06:00 | 香樹院語録を読む | Comments(0)

  三二、地獄え今堕ちると云う心にならねば、
  聞こえませぬか、と或る人お尋ね申せしとき、仰せに。
  いや。そこは、仏智他力の御はからい、
  こちらは唯御念力をきくばかりじゃ。

  (香樹院語録)

 「機なげき」という言葉がある。自分の欠点を責めて自分に絶望することが「機の深信」だと誤解して自分を責めることです。信心の智慧なくして、いくら自分を責め反省しても「卑下慢」にしかならない。信心とは自分が見えることだからです。「機の深信」とは仏に自分の心を見ていただくことです。

 自分の心が見えたことは仏が見えるようにしてくれたとわかる。これが「法の深信」です。このことがあるから「機法一体」といいます。自分の心が見えるので「懺悔」の心が起きますが「懺悔」は自分への絶望でなく、仏への感謝です。ようやく自分がわかった。それは仏がわかるようにしてくれた。仏への感謝と喜びが南無阿弥陀仏という言葉になるのです。

 南無阿弥陀仏

 柏原祐義・禿義峯編「香樹院語録」


# by zenkyu3 | 2017-05-14 06:55 | 香樹院語録を読む | Comments(0)

香樹院語録を読む

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 香樹院語録を読むシリーズは六十回を越えました。あいにくと『香樹院語録』は古書として入手しがたいようですので、このシリーズでは、最初から真宗大谷派・念佛寺さんのホームページから本文を引用させていただいております。ありがとうございます。香樹院語録との最初の出会いは竹内先生からいただいた『香樹院講師語録』(加藤智学編)でした。当時は語録より経典を読みたい気持ちが勝っていましたから、せっかくの書も一通り読んで終わりでした。

 今回もそんなに続くとは思っていませんでしたが、読むほどに面白い。ある意味、歎異抄より奥行きが広く、信心とはなにかが分かりやすく語られ、苦労して聴聞しておられた人たちの姿が尊くありがたく偲ばれます。親鸞によって切り開かれた他力の念仏が六百年の時を蓄積して日本人の血肉となったように感じます。歎異抄は親鸞の肉声を伝えていますが全体として教義に傾き、香樹院語録は聴聞する庶民の顔が見えます。法語、法談、問答、逸話は三百、いましばらく拝読いたします。全休


 南無阿弥陀仏


# by zenkyu3 | 2017-05-13 06:42 | このブログのこと | Comments(0)